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東京高等裁判所 昭和46年(ラ)1号 決定

抗告人 小沢恒彦

相手方 青山一郎

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一  本件抗告の趣旨および理由は別紙のとおりである。

二  当裁判所の判断は次のとおりである。

(一)  抗告理由一について

執行文付与に関する費用、確定証明書付与の費用、送達費用等が本来の債務名義の内容である債権を実現するための執行費用であることは所論のとおりである。しかしながら、抗告人の有する債務名義の内容は金銭債権であつてその執行費用は執行手続内において執行機関により容易に確定することのできるものであり、債務名義の内容たる金銭債権の実現と同時に執行機関においてその取立をするに何ら妨げのないものである。したがつて、原決定が執行費用の確定を求める抗告人の申立を利益がないとして棄却したのは正当であつて所論のような違法はない。

(二)  抗告理由二について

抗告人は執行開始前に執行費用の確定決定の申立が許されないとすると、執行準備が調つた後、債権者が債務者から債務名義の内容である債権の任意弁済を受けた場合には、執行準備のための費用は債務者から取立てることができないまま債権者の負担となる不合理を生じる旨主張するようである。しかしながら、執行準備のための費用を支出して執行をしないうちに任意弁済を受けた場合、右の支出された執行準備費用が、執行準備の段階において執行のため必要な費用と認められる限り、仮に、執行開始前に本来の債務名義の内容である債権が消滅して強制執行が不要に帰したとしても、右の準備費用は債務者が負担すべきであり、その費用が明確である以上、本来の債務名義によつて債務者からその金額を取立てることができると解すべきである。

したがつて、抗告人のこの点の主張も採用の限りでない。

以上のとおり、本件抗告は理由がないからこれを棄却し、抗告費用については抗告人に負担させることとして主文のとおり決定する。

(裁判官 桑原正憲 寺田治郎 浜秀和)

別紙

抗告の趣旨

一 原決定を取消す。

二 抗告人が原審に於いて求めた執行費用額の確定決定を求める。

三 抗告費用は相手方の負担とする。

旨の裁判を求めます。

抗告の理由

一 原決定に依れば執行に先立ちその金額を確定する決定を求める利益はないとして本件申立てを失当としたものであるが強制執行も本案請求権実現のための費用の一部として広義の訴訟費用と謂うべきである。

処で本件の如く執行に着手するに、必要なる執行文付与、並びに送達、確定証明等は、民事訴訟法第五五四条第一項に基づいて当然債務者たる相手方の負担とすべきものである処原審はこれを拒否した。

原決定は、抗告人が相手方に強制執行しなかつたから抗告人が相手方に対して確定決定を為す利益が全く存しないとしているものであるが、本来債務名義を得てもこれに附帯する処の執行文、送達証明、仮執行等の書類が不備の場合執行は断行出来得ないものであるから当然これ等に要したる費用は民事訴訟法第五五四条第一項に基づく執行費用の一部と見做すべきである。

二 このことは、抗告人が強制執行に着手すべく右必要なる書類を整備したる後に相手方より現実に弁済を受けたる場合改めて再度執行裁判所へ取立ての申立てを為すべきものではない。もし仮りに抗告人が執行裁判所へ執行申立をなし執行したとしても現地に於いて弁済したる書類を提出され執行は不能になるであろう。このような場合あらかじめ弁済を受けて居るのであるから右執行に要したる費用(執行裁判所へ執行申立書を提出したる後の費用)は当然債権者が無用の執行を為したとして当然債権者が負担することになるであろう。本件の場合抗告人が出費したる執行着手以前の費用を相手方に求めているものであり、既に東京地方裁判所昭和四十五年(モ)第九四六一号事件に於いてその費用額は相手方の負担とする旨の決定が確定している事柄からしても明らかである。

依つて、原決定は法令違背が見受けられるからこれを取消し抗告人が原審に於いて求めた費用額の確定決定を求めるものであります。

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